
『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』のティーチイン付き上映会が18日、東京・中央区の東劇で開催され、劇団☆新感線の脚本家・中島かずき氏と、ライターの九龍ジョー氏が登壇しました。
見る者を”歌舞伎の沼”に引き込んだ10年前の話題作

(C)松竹
シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』は、2015年に新橋演舞場で上演された話題作を収録したもの。もともとは2002年に劇団☆新感線によって上映された舞台で、松本幸四郎さん(当時は市川染五郎)や堤真一さん、水野美紀さんらが出演しました。

2015年に作・中島かずき氏、演出・いのうえひでのり氏(ともに劇団☆新感線)という強力タッグのもと歌舞伎化され、幸四郎さん(染五郎)、中村勘九郎さん、中村七之助さんら豪華キャストが出演。「これがきっかけで歌舞伎にハマった」「正真正銘の傑作」といった熱い感想が寄せられ、新しいエンターテインメントとして高い評価を得ている作品です。

平安時代に実在した歴史上の人物・阿弖流為(アテルイ)の舞台化を構想した幸四郎さん(染五郎)自身が、阿弖流為役で主演に。蝦夷(えみし)を率いるリーダー・阿弖流為と、蝦夷を討伐する坂上田村麻呂(勘九郎)。敵同士でありながら、奇妙な友情で結ばれる若き2人の男の戦いを軸に、阿弖流為を導く謎の女・立烏帽子(七之助)をはじめとする一筋縄ではいかない登場人物たちによる物語が、従来の歌舞伎にはないスピード、スケール感で描かれています。

この度、シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』は12月5日から11日まで全国の映画館で上映され、東劇では期間を25日まで延長。今回のイベントでは本編上映前に約30分間のティーチインを実施し、同作の脚本家である中島氏とライターの九龍が創作の裏話や歌舞伎俳優への熱い思いを語りました。
「注文住宅」のような脚本づくりと、歌舞伎版へのあて書き

数多くの傑作を生み出し続ける中島氏。執筆スタイルについて問われると、「最近は昼型。午前11時から夕方5時くらいまで」と明かし、自身の脚本作りを「注文住宅」と表現しました。「施工主(プロデューサーや劇団)から、『この柱(主演俳優)で建ててくれ』と言われたら、『ようがす』と答えて図面を引く」と、職人気質な一面をのぞかせました(※ようがす=江戸言葉で「引き受ける」という意味)。

劇団☆新感線版で幸四郎さん(染五郎)と堤さんが演じた役どころを、歌舞伎版では幸四郎さん(染五郎)と勘九郎さんが演じています。中島氏は「勘九郎くんが演じる坂上田村麻呂は、年齢的にも若くなるため、より真っ直ぐで未熟な人間に設定を変えた」と解説。
また、七之助さんが演じた「立烏帽子」と「鈴鹿」については、当初プロデューサーから設定の甘さを指摘された際に、「歌舞伎には『女方』というシステムがある」とひらめいたとか。「男性が女性を演じるという抽象性があるからこそ、思い切って演じることで『人ならざるもの(神)』へと昇華できる」と、歌舞伎ならではの演出意図を明かしました。
質問コーナーで明かされた「蛮甲」の名前の秘密

イベント後半の質問コーナーでは、熱心なファンからも鋭い質問が飛びました。故・片岡亀蔵さんが演じた本作のコミックリリーフ的存在である「蛮甲(ばんこう)」という役の名前について、「シェイクスピア作品『マクベス』に登場する『バンクォー』とかけているのではないか?」という質問が。
中島氏は「それはまんまとミスリードです(笑)」と回答。実際は、史実における阿弖流為の相棒「母禮(モレ)」を由来としつつ、響きとして「バンクォー」のイメージも重ねていたといいます。まさに脚本家ならではのネーミングの妙です。
亀蔵さんは11月24日に都内で発生した火災により亡くなり、歌舞伎界も悲しみに包まれています。中島氏は亀蔵さんが演じた蛮甲について、「歌舞伎俳優の懐の深さを感じた。本当に素晴らしく、もっと一緒に仕事がしたかった」と惜しみ、その演技を絶賛。「スクリーンに残るその名演をぜひ見てほしい」と観客に訴えました。
新作シネマ歌舞伎『朧の森に棲む鬼』への期待
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トークの最後には、2026年1月から公開される新作シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼』についても言及。同作はシェイクスピアの名作『リチャード三世』などに着想を得た、危険な魅力を放つ主人公・ライの物語。
幸四郎さんと息子の市川染五郎さんの親子共演で話題となっている同作について、「染五郎くんのシュテン(酒呑童子)は絶品。ぜひ親子バージョンを見てほしい」と太鼓判を押しました。

また、「歌舞伎俳優の芸は本当にすごい。シネマ歌舞伎はアップで表情が見られるなど、初心者のガイドにもなるし、自分たち作り手にとっても発見がある」と語った中島氏。約30分のトークは、脚本家の視点から見た歌舞伎の魅力と作品への深い愛情に包まれ、盛況のうちに幕を閉じました。
シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』は、東劇にて12月25日(木)まで延長上映中。
■東劇サイト
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